個人でクリニックを経営する医師が概算経費(措置法26条)で申告します。青色事業専従者給与を支給した方がいいの?

【医師が概算経費を選択した場合の青色事業専従者給与】

個人でクリニックを経営する医師が、概算経費を選択します。
社会保険診療の収入に対応する概算経費の金額は、
社会保険診療の収入の金額で決定されます。

概算経費の金額そのものは、
青色事業専従者給与の支給金額に、
影響を受けることは、ありません。

では、青色事業専従者給与は、支給した方が良いのでしょうか?
青色事業専従者給与は、支給しない方が良いのでしょうか?
考えてみましょう。

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目次
1.青色事業専従者給与を支給すると、どうなるの?
2.青色事業専従者給与を支給しないと、どうなるの?
3.青色事業専従者給与を支給するケースと、支給しないケースとを、比較してみましょう
4.青色事業専従者給与を支給するメリットとは?
5.青色事業専従者給与を支給するデメリットとは?
6.青色事業専従者給与を支給しないメリットとは?
7.青色事業専従者給与を支給しないデメリットとは?
8.まとめ

1.青色事業専従者給与を支給すると、どうなるの?

社会保険診療の収入 40,000千円
自由診療の収入 10,000千円
自由診療の収入割合 20%

実額経費 25,000千円
社会保険診療と自由診療とに区分可能な経費は、
ないものとします。

配偶者は、クリニックで仕事をしています。
配偶者へ、青色事業専従者給与5,000千円を支給した場合の
診療利益を考えてみます。

【1】診療収入

40,000千円(社保収入)+10,000千円(自由収入)
=50,000千円

【2】診療経費

①社保経費

A.実額経費

・一般経費
25,000千円×80%
=20,000千円(一般経費)

・青色事業専従者給与
5,000千円×80%
=4,000千円(青色事業専従者給与)

・実額経費の合計
20,000千円+4,000千円
=24,000千円(社保の実額経費の合計)

B.概算経費

40,000千円(社保収入)×62%+2,900千円
=27,700千円

C.措置法差額

27,700千円(概算経費)-24,000千円(社保の実額経費の合計)
=3,700千円

D.社保経費の合計

24,000千円(社保の実額経費の合計)+3,700千円(措置法差額)
=27,700千円

②自由経費

A.一般経費

25,000千円×20%
=5,000千円(一般経費)

B.青色事業専従者給与

5,000千円×20%
=1,000千円(青色事業専従者給与)

C.自由経費の合計

5,000千円(一般経費)+1,000千円(青色事業専従者給与)
=6,000千円(自由経費の合計)

③診療経費の合計

27,700千円(社保経費)+6,000千円(自由経費)
=33,700千円

【3】診療利益

50,000千円(診療収入)-33,700千円(診療経費)
=16,300千円

【4】診療利益に対する所得税と住民税

所得税率を33%、
住民税率を10%とします。
復興特別所得税は、考慮していません。

①所得税

所得控除は、基礎控除380千円のみとします。

(16,300千円-380千円)×33%-1,536千円
=3,717.6千円

②住民税

所得控除は、基礎控除330千円のみとします。

(16,300千円-330千円)×10%
=1,597千円

③所得税と住民税の合計

3,717.6千円(所得税)+1,597千円(住民税)
=5,314.6千円

【5】青色事業専従者給与に対する所得税と住民税

配偶者に課税される所得税と住民税を計算します。
復興特別所得税は、考慮していません。

①青色事業専従者給与

5,000千円

②給与所得控除額

5,000千円×20%+540千円
=1,540千円

③給与所得控除後の青色事業専従者給与

5,000千円(給与)-1,540千円(給与所得控除)
=3,460千円

④所得税

所得控除は、基礎控除380千円のみとします。

(3,460千円-380千円)×10%-97.5千円
=210.5千円(所得税)

⑤住民税

所得控除は、基礎控除330千円のみとします。

(3,460千円-330千円)×10%
=313千円(住民税)

⑥所得税と住民税の合計

210.5千円(所得税)+313千円(住民税)
=523.5千円

所得税と住民税の合計は、次の通りです。
医師ご本人 5.314.6千円
配偶者 523.5千円
合計 5,838.1千円

2.青色事業専従者給与を支給しないと、どうなるの?

社会保険診療の収入 40,000千円
自由診療の収入 10,000千円
自由診療の収入割合 20%

実額経費 25,000千円
社会保険診療と自由診療とに区分可能な経費は、
ないものとします。

配偶者は、クリニックで仕事をしています。
配偶者へ、青色事業専従者給与を支給しない場合の
診療利益を考えてみます。

【1】診療収入

40,000千円(社保収入)+10,000千円(自由収入)
=50,000千円

【2】診療経費

①社保経費

A.実額経費

25,000千円×80%
=20,000千円

B.概算経費

40,000千円(社保収入)×62%+2,900千円
=27,700千円

C.措置法差額

27,700千円(概算経費)-20,000千円(社保実額経費)
=7,700千円

D.社保経費の合計

20,000千円(社保実額経費)+7,700千円(措置法差額)
=27,700千円

②自由経費

25,000千円×20%
=5,000千円(自由経費)

③診療経費の合計

27,700千円(社保経費)+5,000千円(自由経費)
=32,700千円

【3】診療利益

50,000千円(診療収入)-32,700千円(診療経費)
=17,300千円

【4】診療利益に対する所得税と住民税

所得税率を33%、
住民税率を10%とします。
復興特別所得税は、考慮していません。

①所得税

所得控除は、
配偶者控除380千円と、
基礎控除380千円とします。

(17,300千円-380千円-380千円)×33%-1,536千円
=3,922.2千円(所得税)

②住民税

所得控除は、
配偶者控除330千円と、
基礎控除330千円とします。

(17,300千円-330千円-330千円)×10%
=1,664千円(住民税)

③所得税と住民税の合計

3,922.2千円(所得税)+1,664千円(住民税)
=5,586.2千円

3.青色事業専従者給与を支給するケースと、支給しないケースとを、比較してみましょう

【1】配偶者へ青色事業専従者給与を支給したケース

所得税と住民税の合計です。

医師ご本人 5,314.6千円
配偶者 523.5千円
合計 5,838.1千円

【2】配偶者へ青色事業専従者給与を支給しないケース

所得税と住民税の合計です。

医師ご本人 5,586.2千円

支給したケースと支給しないケースの差額は、
251.9千円です。

今回の例では、
配偶者へ青色事業専従者給与を支給しない方が、
医師ご本人と配偶者を合わせたところで、251.9千円の
所得税と住民税の節税メリットがあります。

4.青色事業専従者給与を支給するメリットとは?

医師ご本人の資産が分散され、将来の相続税や贈与税が節税になる

医師ご本人から配偶者へ青色事業専従者給与を支給することで、
医師ご本人から配偶者へ、資産が分散されます。

青色事業専従者給与の支給をしないと、資産の分散も行われません。
医師ご本人に、資産が蓄積されてゆきます。
もちろん良いことではあります。
将来の相続税や贈与税の負担が、重くなると考えられます。

親族間で資産を分散することは、相続税の節税の基本です。
毎年の給与支給を通じて、多少の所得税や住民税を負担しても、
少しづつ資産を分散して行く方が、将来の相続税や贈与税の節税には、
良いと考えます。

5.青色事業専従者給与を支給するデメリットとは?

【1】医師ご本人と配偶者を合わせて見ると、通常、所得税と住民税の負担が重くなる

医師ご本人から配偶者へ、
青色事業専従者給与を支給します。
今回の計算例のように、

医師本人と配偶者を合わせた所得税と住民税の負担は、
青色事業専従者給与を支給しない場合より、
重くなることが多いです。

【2】医師ご本人に、配偶者控除の適用がない

配偶者に青色事業専従者給与を支給します。
医師ご本人に、配偶者控除の適用はありません。

6.青色事業専従者給与を支給しないメリットとは?

医師ご本人と配偶者を合わせて見ると、通常、所得税と住民税の負担が軽くなり、節税になる

医師ご本人と配偶者を合わせて考えます。
今回のケースでは、配偶者へ青色事業専従者給与を支給しない方が、
251.9千円だけ、所得税と住民税の節税メリットがありました。

通常、青色事業専従者給与を支給しない方が、
医師ご本人と配偶者を合わせて見ると、
所得税と住民税の節税メリットがあるケースが多いです。

全診療収入に占める自由診療収入の割合、
医師ご本人と配偶者の所得金額や所得控除額、適用される税率によっては、
必ずしも支給しない方が、節税メリットを得られるとは限りません。

青色事業専従者給与を支給した方が、
節税メリットが得られるケースもあり得ます。

現状を反映させた試算を行いましょう。
そのうえで、青色事業専従者給与の支給の有無、
給与を支給するとした場合の支給金額を、判断するようにしましょう。

7.青色事業専従者給与を支給しないデメリットとは?

医師本人の資産が分散されないため、将来の相続税や贈与税の負担が重くなる

青色事業専従者給与を支給する場合のメリットの裏返しです。
支給しない場合では、資産が分散されません。
将来の相続税や贈与税の負担が重くなります。

8.まとめ

医師ご本人と配偶者をトータルで考えると、
一般的には、青色事業専従者給与を支給しない方が、
所得税と住民税の節税メリットを受けられるケースが多いです。

全診療収入のうちの自由診療収入の割合や、
医師ご本人や配偶者の状況によっては、
必ずしもそうではないケースもあり得ます。

現状を反映させた試算を行います。
試算をもとに、青色事業専従者給与の支給の有無や、
支給するとした場合の支給金額をいくらにするか、
判断するようにしましょう。

将来の相続税や贈与税の負担を重視して、
所得税や住民税を多少負担しても、
青色事業専従者給与を支給する選択もあり得ます。

青色事業専従者給与の金額は、
年の途中でも、金額変更が可能です。

届出済の給与金額の上限を超える変更をする場合には、
「青色事業専従者給与に関する変更届出書」
税務署へ提出しておきましょう。

提出期限は定められていませんが、
変更後の早いタイミングで
提出しておきましょう。

源泉所得税の納付を済ませた給与金額の変更はできません。
ご注意ください。