相続した自社株を発行会社に買い取ってもらうタイミングは、いつがいいの?(相続税の取得費加算、みなし配当課税の特例)

【自社株買取りの際の相続税の取得費加算、みなし配当課税の特例】

創業者から、会社社長を引き継ぎました。
代償分割による相続で、他の相続人に代償金を支払います。
発行会社に相続した自社株を買い取ってもらい、代償金を確保します。

では、相続した自社株の譲渡のタイミングは、
いつにすればいいのでしょうか?
考えてみましょう。

オクラのサラダ

目次
1.自社株を、相続があった日から3年10か月以内に譲渡すると、どうなるの?
.自社株を相続があった日から3年10か月を超えて譲渡すると、どうなるの?
3.まとめ

1.自社株を相続があった日から3年10か月以内に譲渡すると、どうなるの? 

【1】相続税の取得費加算を適用できる

後継社長のAさんが、相続税 50,000千円を納付しました。
代償金を確保するため、自社株を譲渡しました。
譲渡した自社株の相続税評価額は、25,000千円です。

Aさんの課税価額と債務控除は、次の通りです。
相続税の課税価額 180,000千円
債務控除額 20,000千円

本来、相続税は、譲渡した株式の譲渡原価にすることはできません。
自社株を、相続があった日から3年10か月以内に、発行会社に譲渡する
納付した相続税のうち、譲渡した株式に対応する金額を、
株式の譲渡原価に含めることができます。

50,000千円(納付した相続税)
×25,000千円(譲渡株式の相続税評価額)/「180,000千円(相続税の課税価額)+20,000千円(債務控除額)」
=6,250千円(譲渡原価にできる相続税)

相続税のうち、6,250千円を経費にできます。
自社株譲渡による譲渡所得税について、
節税メリットが得られます。

【2】みなし配当を譲渡所得として申告できる(みなし配当の譲渡所得課税)

自社株の譲渡対価は、資本金の払い戻し部分と
会社に留保された利益の配当部分に分けられます。

みなし配当は、留保利益の払い戻し部分です。
本来は、配当所得として、総合課税になります。
総合課税は、超過累進税率の適用を受けます。
最高税率は、55%(所得税45%、住民税10%)です。

自社株を相続があった日から3年10か月以内に譲渡します。
みなし配当を、譲渡所得として、分離課税の扱いになります。
株式の譲渡所得は、20%(所得税15%、住民税5%)の分離課税です。

適用される所得税率が20%を超えるようなら、
みなし配当を、譲渡所得として申告します。
所得税の節税メリットが得られますね。

みなし配当を譲渡所得として申告するには、
「みなし配当課税の特例に関する届出書」を、
発行会社経由で、税務署に提出します。

譲渡価額は、25,000千円です。このうち、
資本金等の払い戻しに相当する部分は15,000千円、
留保利益の配当に相当する部分(みなし配当)は10,000千円です。

譲渡した株式の取得費8,000千円、
相続税の取得費加算額6,250千円とします。
譲渡所得税の計算をしてみます。

①株式譲渡益部分

「25,000千円(譲渡対価)-10,000千円(みなし配当)」
-「8,000千円(株式の取得費)+6,250千円(相続税の取得費加算額)」
=750千円(株式譲渡益)

②みなし配当部分

10,000千円

③譲渡所得の合計

750千円(株式譲渡益)+10,000千円(みなし配当)
=10,750千円

④譲渡所得税

10,750千円×20%
=2,150千円

【3】社長個人への資金還流手段のひとつとして活用できる

自社株を、発行会社へ譲渡します。
相続税の取得費加算と、みなし配当の譲渡所得するメリットを生かし、
代償金の支払資金の確保に活用するケースが比較的多いです。

他に、相続税の納税資金の確保にも活用できます。
相続税の納付期限までに納付ができるよう、
発行会社への売却を検討しましょう。

社長として受け取る役員報酬は、
給与所得として総合課税の適用を受けます。
給与の受給以外に、株主の立場の社長として、
自社株の譲渡を
資金還流手段のひとつに、とらえてみましょう。

相続から3年10か月以内の譲渡で、相続税を取得費に加算できます。
役員報酬の減額などで一時的に、超過累進税率の給与所得から、分離課税20%の譲渡所得に変更できます。
所得税の節税メリットを得られます。

会社の財務状況や経営成績など、
他の事情を考慮する必要はあります。
状況によっては、期間限定で検討してみる余地は、あると考えます。

2.自社株を相続があった日から3年10か月を超えて譲渡すると、どうなるの?

【1】相続税の取得費加算を適用できない

自社株を、相続があった日から
3年10か月を超えて譲渡すると、
相続税の取得費加算を適用できなくなります。

自社株に課税された相続税のうち、
発行会社に譲渡した株式に対応する部分の金額を、
自社株の譲渡原価として、経費にできません。

自社株の譲渡は、相続があった日から
3年10か月以内に行いましょう。
譲渡のタイミングを逸しないよう、十分ご注意ください。

【2】みなし配当を譲渡所得として申告できない(みなし配当の譲渡所得課税は不可)

自社株を、相続があった日から
3年10か月を超えて譲渡すると、
みなし配当を譲渡所得として申告できません。

みなし配当は、留保利益の払い戻し部分です。
配当所得として、総合課税になります。
最高税率は、55%(所得税45%、住民税10%)です。

適用される税率が分離課税の税率20%を超えるようなら、
大きなデメリットになります。

先ほどの例の、みなし配当10,000千円です
所得税は、税率表より33%、住民税は10%の課税です。
明らかに、税負担は20%より増えてしまいますね。

他に、給与所得などがあれば、
適用税率はさらに上がります。

配当所得については、
配当控除の適用を受けることができます。
忘れず適用しましょう。

3.まとめ

相続で取得した自社株の発行会社への譲渡を行う場合は、
相続があった日から3年10か月を以内に
行いましょう。

①相続税の取得費加算の適用を受けられる
②みなし配当を、譲渡所得として分離課税にできる

2つの所得税の節税メリットを受けられます。

代償金の支払資金や
相続税の納税資金の確保などに
活用しましょう。

発行会社である、同族会社の資金繰りにも注意が必要です。
自社株の買い取り資金確保のため、
生命保険の活用などの考慮もしておきましょう。

会社サイドは、自己株式の買い取りになります。
剰余金の分配可能限度額の確保と、
株主総会の特別決議も必要となります。
ご注意ください。