海外での事業展開は外国支店がいいの?外国子会社がいいの?

【海外事業は外国支店か、外国子会社か】

海外に駐在員事務所を設置して、情報収集をしています。
今後、現地での本格的な営業活動を予定し、
駐在員事務所の支店化、子会社化を考えています。

では、海外での事業活動には、外国支店の形態が良いのでしょうか?
外国子会社の形態が良いのでしょうか?
税務面を中心に考えてみましょう。

香港のメインストリートの交差点

目次
1.外国支店として海外進出すると、どうなるの?
2.外国子会社として海外進出すると、どうなるの?
3.外国支店と外国子会社の税負担を比較してみます
4.外国支店として海外進出するメリットとは?
5.外国支店として海外進出するデメリットとは?
6.外国子会社として海外進出するメリットとは?
7.外国子会社として海外進出するデメリットとは?
8.まとめ

1.外国支店として海外進出すると、どうなるの?

外国支店を設置すると、
外国と日本との税額の合計は
どうなるのでしょうか?

A国に、国外支店を設置します。
本社の国内所得は20,000千円で、すべて日本での事業所得とします。
国外支店に帰属する所得は10,000千円で、すべてA国での事業所得とします。

日本の実効税率30%、
A国の実行税率20%とします。

【1】A国での課税

10,000千円(A国支店帰属所得)×20%(現地の実効税率)
=2,000千円(外国税額)

【2】日本での課税

(20,000千円+10,000千円)×30%(日本の実効税率)
=9,000千円

9,000千円(法人税額)-2,000千円(外国税額控除額)
=7,000千円

【3】外国と日本との税額合計

2,000千円(外国)+7,000千円(日本)
=9,000千円

2.外国子会社として海外進出すると、どうなるの?

外国子会社を設立すると、
外国と日本との税額の合計は
どうなるのでしょうか?

A国に、外国子会社を設立します。
本社の国内所得は20,000千円で、すべて日本での事業所得とします。
外国子会社に帰属する所得は10,000千円で、すべてA国での事業所得とします。

日本の実効税率30%
A国の実行税率20%
A国の配当に対する源泉徴収率10%、とします。

A国と日本での税額の合計を計算します。
A国の税引き後利益を、全額、
日本の親会社へ配当します。

【1】A国での課税

税引き前利益 10,000千円
外国税額 ▲2,000千円(10,000千円×20%)
税引き後利益 8,000千円

親会社への配当金額 8,000千円
配当源泉税 ▲800千円(8,000千円×10%)
税引き後配当 7,200千円

A国の税額合計
2,000千円(外国の法人税)+800千円(配当の源泉税)
=2,800千円

【2】日本での課税

①税引き前利益

20,000千円+7,200千円(配当手取額)
=27,200千円

②配当源泉税の損金不算入

800千円 (配当源泉税)

③外国子会社配当の益金不算入

8,000千円(配当金)×95%
=7,600千円

④課税所得

27,200千円(税前利益)+800千円(配当源泉)-7,600千円(配当益金不算入)
=20,400千円

⑤法人税

20,400千円×30%
=6,120千円

【3】外国と日本との課税合計

2,800千円(外国)+6,120千円(日本)
=8,920千円

3.外国支店と外国子会社の税負担を比較してみます

【1】配当金の源泉税率が低いほど、外国子会社がメリットあり

【2】外国と日本の実効税率の差が大きいほど、外国子会社がメリットあり

外国支店と外国子会社の税負担を比較してみます。

外国支店 9,000千円
外国子会社 8,920千円
差額 80千円

差額80千円は、発生原因を3つに分類できます。

①配当金の益金算入部分の税額 120千円

8,000(配当金)×(100%-95%)×30%(日本の実効税率)
=120千円

配当金の益金算入部分は、
結果的に、外国と日本とで二重課税されます。
子会社形態にとって、デメリットです。

②配当金の外国源泉税 800千円

8,000千円×10%(外国の源泉税率)
=800千円

配当金の外国源泉税は、損金不算入です。
外国税額控除の対象になりません。
子会社形態にとって、デメリットです。

二国間の租税条約で、
配当金の源泉税率が低いほど、
子会社形態にメリットがでます。

③外国と日本の実効税率の差異 1,000千円

10,000千円×(30%-20%)
=1,000千円

日本の実効税率より、外国の実効税率が低いので、
子会社形態にとっては、メリットです。

外国の実効税率が低ければ低いほど、
子会社形態に、メリットがでます。 

実行税率20%未満のケースでは、原則として
タックスヘイブン対策税制の適用があります。
ご注意ください。

4.外国支店として海外進出するメリットとは?

外国支店の赤字を日本の本店の黒字と損益通算できる

日本の内国法人が、外国支店を設置します。
設置初期の外国支店は、立ち上げコストもかかり、
当面は、赤字になる可能性もあるでしょう。

日本の内国法人は、全世界の所得に対して、法人税が課税されます。
外国支店の赤字と、日本の本社の黒字は、損益通算できます。
黒字化が可能となる段階で、外国子会社を設立します。

日本の内国法人は、設置初期の外国支店の赤字により、
法人税の節税メリットを受けられます。

5.外国支店として海外進出するデメリットとは?

【1】日本の本社が事業活動の責任を負う

外国支店は、日本の内国法人が、
外国で事業活動をする拠点です。

外国での事業活動の責任は、
日本の内国法人が負うことになります。

【2】会計処理や事務処理が煩雑になる

現地の会社法、会計基準、税法で、
外国支店の所得を計算します。

外国支店の所得を、日本の本社の所得に
合算する必要があります。
会計処理は、煩雑になります。

日本の本社の財務諸表を提出する必要があるケースでは、
財務諸表の翻訳が必要です。
事務処理も煩雑になります。

6.外国子会社として海外進出するメリットとは?

【1】日本の本社は、事業活動の責任が限定される

子会社形態では、
事業活動の責任の主体は、
外国子会社になります。

日本の内国法人は、
株主としての有限責任になります。
責任面では、支店形態よりも軽減されます。

【2】日本法人と外国子会社とで、会計処理や事務処理は、区別される

タックスヘイブン対策税制の適用を受けるケースを除いて、
原則として、所得を合算する必要はありません。
日本と現地とで区別されます。

会計処理や事務処理は、
支店形態の処理と比べて
分かりやすいでしょう。

7.外国子会社として海外進出するデメリットとは?

現地の会社法により、資本金の制約を受ける

当面は、小規模な投資を考えてます。
現地の最低資本金が高額のケースもあり得ます。
最低資本金をクリアしないと、会社設立もできません。

許認可と資本金が関係するケースもあります。
許認可を得るための資本金が高額であっても、
クリアする必要があります。
ご注意ください。

8.まとめ

海外進出では、一般的に、
外国子会社の設立を選択した方が良いでしょう。

①責任が限定される
②所得を合算する必要がない

責任面や事務処理面でのメリットは
大きいと考えます。

税負担については、
外国の実効税率、配当の源泉税率によって
有利なのか不利なのか、変わってきます。

支店形態と子会社形態とで
試算のうえ、比較検討しましょう。

軽課税国へ安易に子会社を設立すると、
タックスヘイブン対策税制の適用を受けます。
ご注意ください。