「相続時精算課税の贈与」を選んだ方がいいの?「暦年課税の贈与」を選んだ方がいいの?

【相続時精算課税の贈与か、暦年課税の贈与か】

財産を贈与する場合、2つの方式のどちらか1つを選択できます。

1つは、「相続時精算課税の贈与」です。
贈与の際に、仮に相続が起こったと考えます。
贈与による所有権の移転の際、一律20%の贈与税を負担します。
実際の相続時に、贈与税の精算をします。

もう1つは、「暦年課税の贈与」です。
1年単位で、贈与財産に贈与税が課税されます。
原則として、相続時に、贈与税の精算は、ありません。

では、「相続時精算課税の贈与」を選んだ方が良いのでしょうか?
「暦年課税の贈与」を選んだ方が良いのでしょうか?
考えてみましょう。

大輪のひまわり

目次
1.「相続時精算課税の贈与」を選択すると、相続税はどうなるの?
2.「暦年課税の贈与」を選択すると、相続税はどうなるの?
3.「どちらの贈与」も選択しないと、相続税はどうなるの?
4.「相続時精算課税の贈与」のメリットとは?
5.「相続時精算課税の贈与」のデメリットとは?
6.「暦年課税の贈与」のメリットとは?
7.「暦年課税の贈与」のデメリットとは?
8.まとめ

1.「相続時精算課税の贈与」を選択すると、相続税はどうなるの?

相続時精算課税の贈与財産に課税される相続税は、贈与時の時価で計算する

父、母、子の3人について、
父から子に賃貸マンションを贈与します。

父の財産は、賃貸マンションのみで、
時価は次の通りです。

贈与時  50,000千円
↓10年後↓
相続時 100,000千円

【1】相続時精算課税の贈与をした時の贈与税

25,000千円までは、贈与税ゼロで贈与できます。
超えると、以後は、一律20%の贈与税が課税されます。

(50,000千円-25,000千円)×20%=5,000千円

贈与から10年後、父が亡くなりました。
相続税はどうなるのでしょうか?

【2】相続財産の価額

マンションを贈与したときの時価です。
50,000千円

【3】基礎控除

30,000千円+6,000千円×(法定相続人の数)
で計算します。

30,000千円+6,000千円×2人(母、子)
=42,000千円(基礎控除)

【4】相続税の総額

相続税の税率表に基づいて計算します。
(相続財産の価額-基礎控除)×税率-控除額
=相続税の総額

(50,000千円-42,000千円)×10%
=800千円

相続税の税率表(平成27年1月1日以降)
課税価額     税率    控除額
~10,000千円     10%    ゼロ
~30,000千円     15%   500千円
~50,000千円     20%   2,000千円
~100,000千円   30%   7,000千円
~200,000千円   40%    17,000千円
~300,000千円   45%  27,000千円
~600,000千円   50%  42,000千円
600,000千円超~  55%  72,000千円

精算課税の贈与税5,000千円を前払しています。
相続税の申告で、相続税800千円を差し引いた
4,200千円を戻してもらえます。

800千円-5,000千円=▲4,200千円

2.「暦年課税の贈与」を選択すると、相続税はどうなるの?

原則として、暦年課税の贈与した財産には、相続税は課税されない。

【1】暦年課税の贈与をした時の贈与税

贈与税の税率表に基づいて計算します。
(贈与財産の価額-基礎控除1,100千円)×税率-控除額
=贈与税
この場合、父から子への贈与ですので、特例税率を使用します。

(50,000千円-1,100千円)×55%-6,400千円
=20,495千円

【2】相続財産の価額、相続税の総額

贈与財産は、子に移転しています。
相続財産は、ゼロです。
相続税もゼロです。

3.「どちらの贈与」も選択しないと、相続税はどうなるの?

相続財産に課税される相続税は、相続時の時価で計算する

【1】相続財産の価額

相続があったときのマンションの時価です。
100,000千円

【2】基礎控除

30,000千円+6,000千円×2人
=42,000千円

【3】相続税の総額

(100,000千円-42,000千円)×30%-7,000千円
=10,400千円

4.「相続時精算課税の贈与」のメリットとは?

親の相続時までに、相続時精算課税の贈与をした財産の価額が上昇すれば、節税メリットがある

3つのケースで、相続税と贈与税の合計を比較します。

【1】相続時精算課税制度を選択

贈与税5,000千円+相続税▲4,200千円
=800千円

【2】暦年課税の贈与を選択

贈与税20,495千円+相続税ゼロ
=20,495千円

【3】贈与しないことを選択

贈与税ゼロ+相続税10,400千円
=10,400千円

相続時精算課税制度を選択した場合が、
トータルの税額が一番少ないですね。

マンションの価額が上昇した効果で、
トータルの税金が抑えられています。

財産の時価の上昇が見込まれるケースでは、
精算課税の贈与の選択に、相続税の節税メリットがあります。 

会社経営者が保有する自社株を相続時精算課税の贈与をするケースです。
相続時精算課税の贈与した時の時価は、50,000千円でした。
その後、会社が成長して、相続時には100,000千円なりました。

このケースでも、相続時精算課税の贈与の選択にメリットがあります。

5.「相続時精算課税の贈与」のデメリットとは?

親の相続時までに、相続時精算課税の贈与をした財産の価額が下落すると、節税メリットがなくなる

先ほどの例で、下記の場合を考えます。

贈与時  50,000千円
↓10年後↓
相続時  25,000千円

3つのケースで、相続税と贈与税の合計を比較します。

【1】相続時精算課税制度を選択

贈与税5,000千円+相続税▲4,200千円
=800千円

【2】暦年課税を選択

贈与税20,495千円+相続税ゼロ
=20,495千円

【3】贈与しないことを選択

贈与税ゼロ+相続税ゼロ
=トータルゼロ

贈与しないことを選択した場合が、
トータルの税額が一番少ないですね。

マンションの価額が下落したことで、
結果的に、相続税が抑えられています。

未来のことはわかりにくいですが、
特に、財産の時価の下落が見込まれるケースでは、
相続時精算課税制度の選択は、慎重に行うことが大切です。

精算課税贈与後に、マンションが震災で全壊し、
その後、相続が発生したケースです。

相続時精算課税の贈与ですので、
マンション贈与時の時価50,000千円に対して、
相続税が課税されます。

仮に、相続時精算課税の贈与を選択していない場合、
相続時のマンションの時価は、ゼロです。
相続税もゼロです。

震災による滅失など、不可抗力によっても、
相続時精算課税制度の選択がデメリットになる可能性があります。
頭に入れておきましょう。

6.「暦年課税の贈与」のメリットとは?

年1,100千円以下の贈与なら、無税で財産を移転できる

例では、暦年贈与の選択が、
一番税金が高額でした。

ただ、年1,100千円までなら、
無税で財産を移転できます。

現金などの、少額ずつの贈与が可能な財産を、
長いスパンで贈与を行う場合には、
相続税の節税メリットがあります。

毎年1,100千円ずつ、20年贈与すると、22,000千円です。
2人に贈与したなら、44,000千円です。
相続税の対策は、長期的かつ計画的に行うことが大切です。

7.「暦年課税の贈与」のデメリットとは?

高額な財産の移転には、相続税よりも高額の贈与税が課税されてしまう。

例では、暦年贈与の選択が、
一番税金が高額でした。

相続税の課税漏れを防ぐために、
贈与税の負担は、高額になっています。

高額な財産の移転には、どちらかというと、
暦年贈与は不向きです。 

贈与から3年以内に、贈与した人がなくなると、
暦年贈与した財産にも、相続税が課税されます。
暦年贈与の贈与税は、相続税から控除されます。

8.まとめ

財産の時価の上昇が見込まれる賃貸マンションや自社株などの贈与には、
相続時精算課税の贈与を選択すると良いでしょう。
相続税の節税が期待できます。

賃貸マンションの場合、
賃貸収入も贈与される人に、
自動的に移転できます。

万一、父より先に子がなくなったケースです。
子の妻と孫に、賃貸マンションの相続税が課税されます。

その後、父がなくなると、もう一度、賃貸マンションについて、
子の妻と孫に、相続税が課税されます。

2回目の相続税は、本来、子が負担すべきものを、
子の妻と孫が引き継いで負担した格好になります。

可能性としては少ないかもしれません。
念のため、受贈者が先に死亡する二重課税リスクや、
震災などによる滅失リスクも考慮しておいた方が良いでしょう。

そして、時価の下落が見込まれる賃貸マンションや自社株などの贈与には、
相続時精算課税制度の選択は、慎重に行いましょう。

相続時精算課税制度は、一度選択すると、撤回できません。
ご注意ください。

考え方によっては、「何もしない」という選択もありうることを、
頭に入れておきましょう。

暦年課税の贈与は、高額の財産を一度にではなく、
少額の財産を長期計画で贈与してゆくケースに、
相続税の節税メリットがあります。

長期的な相続対策をされる方は、
積極的に活用されると良いでしょう。