債権が回収不能のとき、貸倒損失は計上するの?

【貸倒損失を計上するか、しないか】

どんなに注意を払っていても、売掛金や貸付金が
やむを得ず回収できなくなることがあります。

このとき、売掛金をなくして、
貸倒損失を計上した方が良いのでしょうか?
売掛金に残しておいた方が良いのでしょうか?

会計上と税務上とに分けて、考えてみましょう。

チョコのかかったおいしい棒あげるという女性

 

目次
1.【貸倒損失】法律的に債権が消滅した場合
2.【貸倒損失】事実上の貸し倒れの場合
3.【貸倒損失】形式上の貸し倒れの場合
4.まとめ

1.【貸倒損失】法律的に債権が消滅した場合

会社の倒産手続きで、法律的に債権が消滅するケースです。
主に3つあります。

【1】会社更生法、会社法、民事再生法の認可決定

【2】債権者集会の協議決定や行政機関や金融機関のあっせん

【3】債務者の債務超過が相当期間(一般的に3年から5年)継続し弁済を受けられない場合、 債務者に債務免除の通知をしたとき 

これらの事由で切り捨てられる金額の、貸倒損失の処理について考えてみましょう。

①中小企業の会計指針、基本要領

貸倒損失の計上が強制される

会社の倒産手続きで、法律的に債権が消滅したら、
貸倒損失を計上します。

②税務上

貸倒損失の計上が強制される

会計指針や基本要領と同じく、
貸倒損失の計上が強制されます。

会社が赤字で、さらに赤字が増えるからと言って放置にしておくと、
会計指針や基本要領が求める処理から逸脱します。
会計指針や基本要領は、法律ではないので、違法とは言い切れません。

ただ、金融機関は、決算書はもちろん、勘定科目の内訳明細も精査します。
毎年同じ金額の売掛金が残っていると、不良債権?と疑われます。
たとえ売掛金1,000,000円があっても、無価値と評価される可能性が大です。

放置しても、法人税を計算するときは、強制的に損失に計上されます。
あくまで法人税の計算上だけ、貸倒損失を計上するので、
決算書そのものは、傷みませんが・・・。

これらを考慮すると、法律上の債権が消滅した場合、
貸倒損失を計上すべきと考えます。

2.【貸倒損失】事実上の貸し倒れの場合

債務者の資産状況、支払能力等から、実質的に回収不能と認められる場合

債務者の資産状況や支払能力から、事実上の回収できない貸し倒れの場合です。

【1】中小企業の会計指針、基本要領

貸倒損失の計上が強制される

債務者の資産状況、支払能力等から、
実質的に回収不能と認められる場合、
貸倒損失の計上が求められます。

一言でいうと、「こりゃ、回収は無理だ」というケースです。
もちろん、取引先の決算書などで、
回収不能が客観的に認識できる必要性が求められます。

【2】税務上

債務者の資産状況、支払能力等から、 全額の回収不能が明らかなとき、貸倒損失に計上できる

債務者の資産状況、支払能力等から、
全額の回収不能が明らかなとき、
明らかになった事業年度の貸倒損失として、経費にできます。

次の場合は、税務上、貸倒損失の計上ができません。ご注意を!

①1円でも回収可能な金額がある
②担保があって、まだ処分されていない

会計上と違って、税務上は「経費にできる」となっています。
損失を計上しなくても問題はありません。
また、中小企業の会計指針や基本要領は、法律ではありません。
貸倒損失として経費にしなくても、法律違反とは言い切れません。

税務上は、「できる」だからしなくてもいい。
会計上は、法律でないから、しなくてもいい。
じゃあ、しなくてもいいんだ。なんてことになり得ます。

だからと言って、そのまま放置しておくと、
貸借対照表や損益計算書が会社の状態を
正しく反映していないことになります。

金融機関は決算書や勘定科目の内訳書を見て、
売掛金のうち、不良債権がないか精査をします。

表面上、貸倒損失の計上をやめておくのは、
通用しない時代になっていると考えてよいでしょう。
貸倒損失として、計上すべきと考えます。

3.【貸倒損失】形式上の貸し倒れの場合

継続取引を行っていた債務者の、資産状況、支払能力等が悪化して、
取引を停止した場合

継続取引を行っていた債務者の、
資産状況、支払能力等が悪化して、
取引を停止した、形式上の回収できない貸倒の場合です。

【1】中小企業の会計指針、要領

特に規定されていない

実は会計上は、特に規定はされていません。
実質的には、貸倒損失の計上が求められていると考えてよいでしょう。

【2】税務上

4つの条件を満たす場合、貸倒損失を計上できる
①継続取引を行っていた債務者の、資産状況、支払能力等が悪化して、
取引を停止した
②取引停止時と最後の弁済時のうち、いちばん遅い日から1年以上経過した
③同一エリアの債務者の売掛債権の総額が、取り立て費用より少ない
④支払いの督促をしても弁済がない

4つの条件を満たせば、税務上、貸倒損失を計上できます。

次の場合は、税務上、貸倒損失の計上ができません。ご注意を!

担保物があるのに、いまだ処分されていない場合

税務上は、貸倒損失の計上が「できる」となっています。
貸倒損失は計上しなくてもいいことになります。

会計上は、貸倒損失の計上が求められているものの、
法律ではないので、損失計上しなくても、違法とは言い切れません。

ただ、金融機関は、決算書の精査で、不良債権を炙り出します。
貸倒損失として計上した方がよいと考えます。

4.まとめ

不良債権は、貸倒損失として計上すべきと考えます。
そもそも赤字の時は、損失計上で、さらに赤字が増えてしまうのも
理解できますが・・・。

貸倒損失の計上は、損益計算書で特別損失に表示します。
金融機関に対しては、あくまでも一過性で、
特別な損失であることをアピールしましょう。

回収が難しい売掛金で、貸倒損失計上の判断が困難な場合、
決算日までに「債務免除通知書」を内容証明などで郵送すれば、
損失計上が可能になります。節税としてご検討ください。

なお、売掛金で回収できない金額のうち、消費税相当額は、
当期の売上の消費税から控除できます。
当期の消費税が安くなりますので、忘れないようにしましょう。

貸付金の貸し倒れは、消費税の控除はできません。
ご注意ください。