税効果会計は採用した方がいいの?
【税効果会計を採用するか、しないか】
会計上&税務上で、
経費になるタイミングがすべて同じなら
税引き前利益=課税所得です。
会計上&税務上で、
経費になるタイミングが少しでも違えば、
税引き前利益≠課税所得です。
すると、
税引き前利益×実効税率35%≠法人税等
課税所得×実効税率35%=法人税
会計上、税引き前利益と法人税額の対応関係が崩れます。
対応関係の崩れを解消するのが税効果会計です。
はたして会社の評価はアップするのでしょうか?
採用した方がいいのか、採用しない方がいいのか、
考えてみましょう。
目次
1.税効果会計はどのように計算するの?
2.税効果会計の適用は強制なの?
3.税効果会計を採用するメリットとは?
4.税効果会計の対象になる項目とは?
5.まとめ
1.税効果会計はどのように計算するの?
【1】当期
経常利益を2,000千円。
会計上、貸し倒れ損失▲1,000千円を計上。
税引き前利益は1,000千円になります。
貸し倒れ損失が、税務上の要件を満たさない場合、
税金計算で経費として認められません。
税引き前利益1,000千円+貸し倒れ損失1,000千円
=課税所得2,000千円
×実効税率35%=700千円
①税効果会計の適用なし
経常利益2,000千円
貸し倒れ損失▲1,000千円
税引き前利益1,000千円
————————————
法人税等(35%) ▲700千円
税引き後利益 300千円
利益1,000千円、税率35%なのに、
税引き後利益が300千円しかありません。
なんとなく違和感がありますね。
②税効果会計の適用あり
経常利益2,000千円
貸し倒れ損失▲1,000千円
税引き前利益1,000千円
————————————–
法人税等(35%) ▲700千円
法人税等調整額 350千円
税引き後利益 650千円
利益1,000千円、利益率65%(税率35%)で
税引き後利益が650千円です。
数字的にスッキリしました。
税効果会計を採用すると、
当期の税引き後利益が350千円だけ増えているのを、
覚えておいてくださいね。
【2】翌期
税引き前利益1,000千円。
貸し倒れの要件を充足。
税金計算で経費になり、法人税はゼロです。
税引き前利益1,000千円-貸し倒れ損失1,000千円
=課税所得 0千円
①税効果会計の適用なし
税引き前利益1,000千円
法人税等 0千円
税引き後利益 1,000千円
利益が1,000千円で、法人税がゼロ?
この表示だけ見ると、
なにか違和感がありますね。
②税効果会計の適用あり
税引き前利益1,000千円
法人税等調整額 ▲350千円
税引き後利益 650千円
これだと数字的にスッキリします。
既に支払い済みの法人税350千円を
調整額として載せます。
法人税のうち、前払い分を
損益計算書では法人税等調整額として、
法人税等と別に表示します。
貸借対照表には、繰延税金資産として表示します。
繰延税金資産は、未来の法人税の前払い分です。
利益が出た場合、未来の法人税の減少効果を発揮します。
2.税効果会計の適用は強制なの?
【1】税効果会計が強制される会社
税効果会計が強制的に適用されるのは、
次の3つの会社と考えてよいでしょう。
①上場会社
②資本金5億円以上の会社
③負債の総額が200億円以上の会社
【2】税効果会計が強制されない会社
上記3つ以外の非上場の中小企業
非上場の中小企業は、
税効果会計を適用するか、しないかを選択できます。
3.税効果会計を採用するメリットとは?
繰延税金資産の計上により、自己資本比率が上昇する
計算例で、税効果会計を適用すると、
当期の税引き後利益が350千円だけ増えていたのを
覚えていて下さいましたか?
税引き後利益
税効果会計適用なし 300千円
税効果会計適用あり 650千円
税引き後利益は、自己資本です。
自己資本比率が上昇します。
金融機関からの評価が上がります。
「すぐ採用しよう」と声が聞こえてきそうです。
土地や建物は、実際に見て収益価値や換金価値を確認できます。
繰延税金資産は、換金価値はなく、目に見えません。
繰延税金資産が、未来の法人税の減少効果を発揮できるのかどうか。
将来にわたって黒字の継続ができるかどうかにかかってきます。
未来の黒字の継続が、繰延税金資産の価値を高めます。
税効果会計を採用しても、赤字体質、赤字見込みなら、
そもそも法人税はゼロです。
繰延税金資産は、回収能力を発揮できません。
資産価値もゼロです。
金融機関は、繰延税金資産の価値を厳格に見ます。
赤字見込みなのに、いくら繰延税金資産を計上しても、
価値を認めてもらえません。
冷静に実現性のある損益を想定しましょう。
税効果会計のメリットがあるのは、黒字体質の会社です。
赤字体質の会社は、黒字体質への改善を一歩ずつ進めましょう。
それから税効果会計の採用を考えましょう。
もちろん税効果会計に関係なく、経営の改善は必要です。
4.税効果会計の対象になる項目とは?
税効果会計の対象になる主な5項目です。
これ以外にも、もちろん税効果会計の対象になる項目はあります。
【1】土地や建物の減損計上額
【2】減価償却の償却超過額
【3】不良債権の有税での償却額
【4】賞与引当金や退職給付引当金の繰入額
【5】繰越欠損金
よく見て頂きたいのは、繰越欠損金です。
未来の利益と相殺することで、法人税の減少効果を発揮します。
過去の赤字が、繰延税金資産として、自己資本を強化することになります。
もちろん、黒字の継続が必要です。
5.まとめ
税効果会計を採用して、繰延税金資産を計上すると、
自己資本比率が改善し、財務体質が強化されます。
金融機関からの評価が高くなります。
ただ、前提として、黒字の継続が求められます。
ここをクリアすれば、メリットがあります。
ちょっと高いハードルかもしれませんね。
無理に採用する必要はないでしょう。
なお、税効果会計を採用しても、採用しなくても、
法人税の納税額は変わりません。
税効果会計は、残念ながら、法人税の節税効果はゼロです。