期末棚卸資産の評価方法は、どれを選択すればいいの?

【期末棚卸資産の評価方法の選択】

在庫が減ると、
売上原価が増えて、
利益が減りますね。

税務上、在庫金額の計算では、
6つの原価法か、6つの低価法
のどれかひとつを選択できます。

あわせて12パターンのうち、
どれを選択すれば良いのでしょうか?
考えてみましょう。

ユリの花とモンシロチョウ

目次
1.6つの原価法の特徴とは?
2.6つの低価法の特徴とは?
3.期末棚卸資産の評価方法の選択手続は、どうすればいいの?
4.期末棚卸資産の評価方法を変更するには、どうすればいいの?
5.まとめ

1.6つの原価法の特徴とは?

【1】個別法

①商品をひとつずつ個別に管理して期末在庫を計算

②個別法の特徴1・・・理論的に一番正確

③個別法の特徴2・・・同規格の品物を大量に扱う場合は不向き

名前の通り、商品をひとつずつ
個別に管理して、 期末在庫を計算します。
理論的にいちばん正確な棚卸資産の金額です。

同じような規格の商品を多量に扱うときは、向いてません。
宝石、中古車、不動産業者の土地や建物など、
個別管理が必要な場合に採用しましょう。

【2】先入先出法

①先に仕入した商品から売却したとして期末在庫を計算

②先入先出法の特徴1・・・商品の自然な流れにそっている

③先入先出法の特徴2・・・デフレ局面で、在庫商品の仕入単価が低目にでる

先に仕入した商品から売却したとして、
期末在庫を計算します。
商品の自然な流れにそった方法です。

物価の下落局面では、在庫商品の仕入単価が低目にでます。
売上原価は多くなり、利益が減少します。
デフレ時は、節税になり、有利ですね。

【3】総平均法

①期首の商品と、期中に取得した商品の総平均単価で期末在庫を計算

②総平均法の特徴1・・・計算は比較的簡単

③総平均法の特徴1・・・インフレ局面では、物価上昇の影響を薄めることができる

期首の商品と、期中に取得した商品の総平均単価で、
期末在庫を計算します。決算期末まで
単価を計算できないので、 迅速性に劣ります。

計算は比較的簡単です。
迅速性をカバーするため、
月ごとに計算するとよいでしょう。

粉末や液体を混合して保管するなど、
買った順番が明確でない場合などに
採用例があります。

物価の上昇局面では、 期末近くの高い単価と
今迄の低い単価との平均をとるので、
物価上昇の影響を薄めることができます。

在庫商品の仕入単価が低目にでます。
売上原価が多くなり、利益が減少します。
インフレ時には、節税になり、有利ですね。

【4】移動平均法

①仕入の都度、仕入品と保有の商品との平均単価を算出し、最後の平均単価で期末在庫を計算

②移動平均法の特徴1・・・物価変動を薄めることができる

③移動平均法の特徴2・・・計算が煩雑

商品の仕入の都度、仕入品とすでに保有の商品との
平均単価を算出していって、最後の平均単価で
期末在庫を計算します。

物価変動が薄まりますが、計算が煩雑です。
中小企業では、特に理由がないなら、
採用を控えてもよいでしょう。

【5】最終仕入原価法

①最後の仕入単価で、期末在庫を計算

②最終仕入原価法の特徴1・・・計算が簡単

③最終仕入原価法の特徴2・・・高い金額で仕入しても、最終単価で評価する

決算期末前の最後の仕入単価で、
期末在庫を計算します。
計算は、いちばん簡単です。

決算前に安く仕入れます。 これまで高い金額で
仕入れた商品も、 期末在庫の計算では、
最後の安い仕入単価を使います。

売上原価が多くなり、利益が減ります。
税負担が減り、節税になりますね。
節税面では、最終仕入原価法の採用がよいでしょう。

【6】売価還元法

①期末在庫の販売価額に原価率を掛算して計算

②売価還元法の特徴1・・・小売店で商品が多数あり、全部の単価計算が困難なときに有効

③売価還元法の特徴2・・・原価計算をしていない場合の仕掛品の在庫計算に有効

期末在庫の販売価額に原価率を掛算して計算します。
採用例は、小売のお店で商品が多数あって、
商品ぜんぶの単価計算が困難なケースなどです。
同種類の商品グループごとに計算しましょう。

中小企業の製造業で原価計算をしていない場合、
製造途中の仕掛品や半製品の
期末在庫の計算にも有効です。

2.6つの低価法の特徴とは?

①6つの原価法で計算した期末在庫の金額と、時価との低い金額で評価

②低価法の特徴1・・・評価損を売上原価に計上する

③低価法の特徴2・・・粗利の金額が低めにでる

6つの原価法で計算した期末在庫の金額と、
時価とのいずれか低い金額で評価します。

原価と時価との差額は、評価損として売上原価に計上します。
翌期に同額を収益に計上する洗い替えが必要です。
法人税の節税メリットは、最初の評価損の計上分になりますね。

会社外部に決算書を提出する場合、
粗利の金額が低くみえるのは、
デメリットになるかもしれません。

3.期末棚卸資産の評価方法の選択手続は、どうすればいいの?

「棚卸資産の評価方法の届出書」を設立事業年度の確定申告書の提出期限までに提出する

会社設立の際に、「棚卸資産の評価方法の届出書」を
設立事業年度の確定申告書の提出期限まで
税務署へ提出します。

「棚卸資産の評価方法の届出書」を提出しなかった場合、
強制的に、最終仕入原価法による原価法の採用になります。
最終仕入原価法による原価法以外の方法を採用しないなら、
届出書を提出する必要はありません。

4.期末棚卸資産の評価方法を変更するには、どうすればいいの?

「棚卸資産の評価方法の変更承認申請書」を適用事業年度開始の日の前日までに提出する

「棚卸資産の評価方法の変更承認申請書」を提出します。
期限は、適用事業年度開始の日の前日までです。
決算日までに出せば、翌期からの変更ができます。

一度選択した評価方法は、少なくとも3年間継続しましょう。
合理的な理由があれば、3年経過後に変更できます。
理由がないと、税務当局が変更を認めない場合もあります。

会計と税務とで違う評価方法を採用することもできます。
二度手間になりますので、特別な理由がない限り、
同じ評価方法を採用しましょう。

5.まとめ

最終仕入原価法による低価法を採用するとよいでしょう。
中小企業では、節税面と事務負担面の、
ダブルでメリットがあります。

計算は簡単なものの、最終仕入単価が実態を反映しないケースも
あり得ます。事務に余力があれ、総平均法などの採用も
検討するとよいでしょう。

物価変動のタイミングでは、評価方法の変更は有効です。
売上原価に適切に反映させるため、先入先出法や総平均法への
変更を検討してみましょう。

経営判断のためには、当期の粗利や粗利率を
1年前や2年前と比較して、
原因を検証することも重要です。

比較と検証のために、
評価方法の継続が大切です。
節税目的の頻繁な変更はやめておきましょう。