従業員の昇格では、取締役と執行役員のどちらがいいの?

【従業員の昇格、取締役と執行役員】

仕事の力量、人間性ともに優れた従業員が昇格します。
従業員の昇格は、取締役が良いのでしょうか?
執行役員が良いのでしょうか? 考えてみましょう。

あじさいの花

目次
1.取締役は、従業員と何が違うの?
2.執行役員は、従業員と何が違うの?
3.使用人兼務役員は、従業員と何が違うの?
4.まとめ

1.取締役は、従業員と何が違うの?

取締役は、会社の重要事項を決定する会社法上の役員です。
取締役として商業登記簿に氏名が記載されます。

取締役と従業員には、
経営における義務と責任、任期、税務上の賞与の取扱い、
主に3つの違いがあります。

【1】取締役の主な義務と責任

取締役には、下記の5つの義務と責任があります。
従業員には、下記の5つの義務と責任はありません。
重く大きな差があります。

昇格する従業員には、この義務と責任への理解はもちろん、
実際に義務と責任を果たしてもらうことが大切です。

①善管注意義務

善良な管理者としての注意義務です。
従業員の延長ではありません。
経営者として高いレベルの注意が要求されます。

②利益相反取引の制限

取締役と会社の利益が相反する取引をする場合、
会社の承認が必要です。
次のような例が挙げられます。

・取締役が会社の商品を破格の値引きで購入する。
・取締役が会社から借金をする。
・取締役が会社を保証人にして借金をする。

③競業取引の制限

取締役が会社と競合する事業を行う場合、
会社の承認が必要です。
次のような例が挙げられます。

・取締役が、会社と競合する事業を行う。
・取締役が、新会社を設立し、会社と競合する事業を行う。

④取締役の監視義務

他の取締役が適正に業務を行っているかを
監視する義務があります。

 ⑤上記4つの義務の怠りを原因とする責任

義務を怠って、会社に損害を与えると、
損害賠償責任を負う場合があります。

【2】任期

①取締役の任期は、原則2年

②従業員の任期は、なし

取締役は、原則2年の任期があります。
従業員は、原則、任期はありません。

親族だけで経営される同族の株式会社では、
取締役の任期を2年から10年に延長する
ケースが多いです。

任期の延長で、役員の変更登記のタイミングが、
2年ごとではなく、10年ごとで済みます。
登録免許税を節税できます。

親族以外の従業員が取締役になる場合、
意見や価値観の相違で対立し、
やめてもらいたいケースもあり得ます。

任期の序盤で発生し、任期10年だと残り任期は長く、
選択肢は解任です。
手続上、可能でも、解任は禍根を残すでしょう。

2年なら任期満了の退任で、穏やかになります。
任期を2年とする定款変更をお勧めします。

【3】税務上の賞与の取扱い

①取締役の賞与は、税務上経費にならない

②従業員の給与は、税務上経費になる

取締役の賞与は、税務上経費になりません。
従業員の給与は、税務上経費になります。
税務上、取締役への賞与の支給は困難です。

2つの対応があります。

①賞与を12等分して月給にオンする。

取締役の月給は、通常、定時株主総会で向こう1年間の給与を決め、
12分割で支給します。事業年度の途中で増減すると、差額分は、
税務上、経費になりません。

あらかじめ賞与を12等分し、月給のせ支給すると経費になります。

②「事前確定給与に関する届出書」を税務署に提出する。

届出書を提出すると、役員の賞与を経費にできます。
届出書の提出期限は、定時株主総会から1か月以内です。
3月決算の場合、通常、遅くとも6月下旬には提出します。

届出書には、賞与の支給時期と支給金額を書きます。
例えば、7月に50万円、12月に50万円と決めます。

その通りに支給しないと、経費にできません。
1円増えても減っても、全額が経費になりません。

事前に賞与の支給金額が確定してしまいます。
向こう1年間の利益や資金繰りについて、
予測と実績とのブレが大きいときは、注意しましょう。

計画予定と実績との相違を分析し、軌道修正が大切です。
税務的には、賞与を12等分してオンする方がリスクは低いでしょう。

2.執行役員は、従業員と何が違うの?

執行役員は会社法に定めはなく、実質的に従業員と同じ

執行役員は、取締役が決定した重要事項を執行する責任者です。
執行役員には、会社の重要事項を決定する権限はありません。
執行役員は会社法に定めはなく、実質的に従業員と同じ取扱いです。

3.使用人兼務役員は、従業員と何が違うの?

取締役の立場と従業員の立場をあわせ持つ、二刀流

取締役の立場と従業員の立場をあわせ持つ、いわば二刀流です。
取締役への就任当初は、従業員の仕事割合を多くし、
徐々に取締役の仕事割合を増やしてゆく方法も考えられます。

従業員分としての賞与は、税務上、経費にすることができます。

4.まとめ

従業員の昇格は、
従業員→執行役員→(使用人兼務役員)→取締役
の流れがよいでしょう。

いきなり取締役ではなく、まずは、
重要事項を執行する執行役員として、業務に取り組んでもらいます。
同時に取締役の義務と責任を理解してもらいます。

場合によっては使用人兼務役員として、徐々に経営にタッチしてもらいます。
その後、取締役として経営参画してもらいます。

対外的に有利だからといって、
安易に取締役へ昇格することは避けた方がよいでしょう。
中途採用でも、同じようなケースに直面することがあり得ます。

いきなり取締役を希望する優秀な方もいるでしょう。
義務と責任を考え、短期間でも執行役員として会社に慣れてもらい、
次に取締役として活躍してもらう方が良いと考えます。

もちろん採用側が、仕事の力量と
人間性の見極めに長けていれば、
直接、取締役への就任でも問題はないと考えます。