名義を借りたままの名義株があります。株主名簿は、名義株主のままにしておいてもいいの?

【同族会社の名義株】

平成2年の商法改正前は、株式会社の設立に7人の発起人が必要でした。
設立のとき、親戚や知人から名義を借りています。
払込みは、自分自身の現金で行いました。
その後、現在まで、そのままになっています。

真正な株主は、社長自身です。
名義株主から真正な株主の社長自身へ、
株主名簿の名義の変更を検討中です。

では、株主名簿は、名義株主のままにしておくことを選択した方が良いのでしょうか?
真正な株主への変更を選択した方が良いのでしょうか?
考えてみましょう。

海辺の3兄弟

目次
1.株主名簿を名義株主のままにしておくと、どうなるの?
2.株主名簿を名義株主から真正な株主に変更すると、どうなるの?
3.株主名簿を名義株主から真正な株主に変更するための書類とは?
4.まとめ

1.株主名簿を名義株主のままにしておくと、どうなるの?

【1】真正な株主に相続が発生したとき、名義株主の株式を相続財産に含める必要あり(相続税の申告もれに、ご注意を!)

株式の名義が他人になっています。
一見すると、ご自身の相続財産になるとは
思えないかもしれません。

株式が名義人の相続財産になるかどうかは、
名義だけで判断するわけではありません。
実質的な引受者である、真正な株主の相続財産になると考えます。

名義株主の株式を、真正な株主の相続財産に含めていないと、
相続税の申告もれとなってしまいます。
名義が他人であることの主張は、一時逃れにすぎません。
注意しましょう。

【2】名義株主自身から、本当の株主だと主張される可能性がある

名義の貸し借りが行われてから時間が立ち過ぎると、
記憶があいまいになったり、関係が悪化したりすることも
あるでしょう。

・名義株主から本当の株主だと主張され、配当金を要求される

・名義株主たちが共同して、会社を支配しようとする

名義の貸し借りが口約束だけだったりすると、
話がますますややこしくなってしまう
可能性もあります。

【3】留保金課税や、100%グループ法人税制の適用の有無の判断に影響する可能性がある

名義株主Aがいます。
本当はBが真正な株主なのに、
名義株主Aが真正な株主だと誤認しました。

株主構成によっては、
留保金課税の適用がない会社が、
適用がある会社に変身してしまうケースもあります。

そうすると、会社の留保金に課税される法人税が、
申告もれとなってしまいます。
税務調査で指摘される可能性もあり得ます。

先ほどと逆のパターンです。
名義株主Aがいます。
実際にAが株式の払込みをしました。

Bが真正な株主だと誤認します。
時間が経過しすぎると、
こんなケースもあるかもしれません。

100%グループ法人税制の適用がある会社の、
100%の支配関係がくずれます。
100%グループ法人税制の適用がない会社に
変身してしまうケースもあります。

100%完全支配関係がある会社からの受贈益は、
法人税の計算上、収益から除外します。
100%完全支配関係が崩れると、
受贈益は、法人税の計算上、収益に計上されます。

税務調査などで、思わぬ法人税の負担が
発生するケースもあり得ます。

株主名簿を名義株主のままにしておくメリットは、
無いと考えた方がよいでしょう。

2.株主名簿を名義株主から真正な株主に変更すると、どうなるの?

 安易に変更すると、名義株主から真正な株主に贈与税が課税されてしまう

対価を伴わずに、株式の名義変更をします。
税務上、原則として、贈与として取り扱います。
名義変更後の株主に、贈与税が課税されます。

名義株主から真正な株主へ、安易に名義変更すると、
贈与税が課税される可能性を残します。

たまたま、課税対象金額が基礎控除額の110万円以下になり、
結果的には、贈与税を納税せずに済むことも
あるかもしれません。

贈与税の課税を確実に回避するため、
名義株主Aが単なる名義人であって、
真正な株主はBであることを説明できるよう
書類を整備しておく必要があります。

3.株主名簿を名義株主から真正な株主に変更するために必要なこととは?

【1】「株主名簿の記載事項の確認書」「名義変更の合意書」を取付けておく

名義株主から
「株主名簿の記載事項の確認書」と「名義変更の合意書」に、
実印の捺印、印鑑証明書の添付をしてもらいます。

そのうえで、名義株主と真正な株主とで共同して
会社への名義変更手続きを行いましょう。

「株主名簿の記載事項の確認書」には、下記の内容を記載します。
・私Aは、真正な株主Bより依頼されてBへ名義を貸したこと
・私Aは、払込みをしていないこと など

「名義変更の同意書」には、下記の内容を記載します。
・私Aは、真正な株主Bより依頼されてBへ名義を貸した名義株主であること
・私Aから、真正な株主Bへの名義変更に同意すること など

【2】名義株主へ配当をしていないかの確認をしておく

名義株主に配当をしていると、課税当局からは、
名義株主が真正な株主と認識される可能性が高いです。
配当金の支払調書を税務署へ提出していれるかもしれません。

配当金の支払先、支払調書の提出の有無を調べます。
名義株主へ配当をしていないことを
確認しておきましょう。

【3】気が付いたタイミングでのご対応を!

創業社長と名義株主の双方が存命中に
書類を取り交わしておくのが良いでしょう。

トラブルを避けるためにも、
気が付いたタイミングで、
早めに名義株の整理をしておきましょう。

4.まとめ

株主名簿は、名義株主から真正な株主へ
変更しておいた方が良いでしょう。

真正な株主であることを証明するための2つの書類を
整備したうえで変更しましょう。

①株主名簿の記載事項の確認書
②名義変更の同意書

安易に変更すると、
贈与税の課税を受ける可能性もあります。
ご注意ください。

法人税の申告書の別表2も、
真正な株主に変更しておいた方がよいでしょう。
課税当局の資産税部門も把握しているようです。

変な疑いや誤解を避ける意味でも
正しくしておきましょう。

真正な株主の相続発生までに、
名義株主から名義を変更ができなかった株式は、
相続財産に含めて相続税の申告をしておきましょう。

念のため、ご自身が他の会社の株主として、
逆に名義を貸したままになっていないか思い返してみるなど、
確認をしておくと良いかもしれません。