複数の会社を経営している社長の役員退職金です。退職のタイミングは同じ年の方がいいの?違う年の方がいいの?
【複数の会社経営者の役員退職金について、退職のタイミング】
複数の会社を経営されている社長も意外に多いのではないでしょうか。
後継者へのバトンタッチで勇退に伴う役員退職金を受け取ります。
役員退職金は、給与などとは分離して課税されます。
では、退職のタイミングは、
同時の方がいいのでしょうか?違う方がいいのでしょうか?
節税メリットがあるのはどちらか、考えてみましょう。
目次
1.複数の会社を同じ年に退職したら、役員退職金はどうなるの?
2.複数の会社を違う年に退職したら、役員退職金はどうなるの?
3.まとめ
1.複数の会社を同じ年に退職したら、役員退職金はどうなるの?
A社とB社の社長を勤める鈴木さんが、
平成28年に勇退して、
役員退職金を受け取ります。
A社の代表取締役としての鈴木社長
昭和61年8月1日 就任
平成28年7月31日 退任
A社勤続30年
役員退職金30,000千円
B社の代表取締役としての鈴木社長
平成8年9月1日 就任
平成28年8月31日 退任
B社勤続20年
役員退職金20,000千円
このケースでは、役員退職金の所得税と住民税はどうなるのでしょうか?
【1】A社の役員退職金の所得税と住民税
退職金の所得税と住民税は、次の計算をします。
・(退職金-退職所得控除)×1/2=退職所得
・退職所得×税率
①役員退職金
A社30,000千円
②退職所得控除
退職金に対する認定経費です。実際に出費した金額ではありません。
勤続1年当たり、400千円を経費として認めてもらえます。
20年を超える部分は、勤続1年あたり700千円を経費として認めてもらえます。
A社の退職金30,000千円に対する認定経費は、15,000千円です。
400千円×20年+700千円×10年
=15,000千円(退職所得控除)
③退職所得
(30,000千円-15,000千円)×1/2
=7,500千円
④役員退職金の所得税
退職金の所得税は、次の計算をします。
(退職所得×税率-控除額)×102.1%
=退職金の所得税
今回の例の計算です。
(7,500千円×23%-636千円)×102.1%
=1,111.8千円
退職所得の金額によって、税率と控除額が決まります。
退職所得の金額 税率 控除額
~1,950千円 5% ゼロ
~3,300千円 10% 97.5千円
~6,950千円 20% 427.5千円
~9,000千円 23% 636千円
~18,000千円 33% 1,536千円
~40,000千円 40% 2,796千円
40,000千円超~ 45% 4,796千円
⑤役員退職金の住民税
退職金の住民税の税率は、一律10%です。
7,500千円(退職所得)×10%(税率)
=750千円
⑥役員退職金の所得税と住民税の合計
1,111.8千円(所得税)+750千円(住民税)
=1,861.8千円
ちなみに、給与30,000千円に対する所得税と住民税は、
約11,000千円です。(所得控除は考慮していません。)
退職金の税金は、給与の税金よりも、ずいぶんお得ですね。
【2】B社の役員退職金の所得税と住民税
同じ年に2回目の役員退職金をB社から受け取る場合、
B社の役員退職金の所得税と住民税は、
次の計算をします。
(A社とB社の退役員職金の合計に対する税金)-(A社の役員退職金に対する税金)
=B社の役員退職金の税金
まず、A社とB社の役員退職金の合計に対する税金を計算します。
①A社とB社の役員退職金の合計
A社30,000千円+B社20,000千円
=50,000千円
②A社とB社の役員退職金の合計分の退職所得控除
同じ年に2回目の役員退職金を受け取るケースでは、
A社の勤続年数に、
A社とかぶらないB社の勤続年数を、
プラスします。
A社 昭和61年8月1日~平成28年7月31日 勤続30年
B社 平成8年9月1日~平成28年8月31日 勤続20年
かぶらないのは、
平成28年8月1日~8月31日までの1か月ですね。
30年+1か月=31年。1年未満は切り上げです。
A社とB社の退職金の合計50,000千円に対する認定経費は、15,700千円です。
400千円×20年+700千円×11年
=15,700千円(退職所得控除)
③A社とB社を合わせた退職所得
(50,000千円-15,700千円)×1/2
=17,150千円
④A社とB社を合わせた役員退職金の所得税
退職金の所得税は、次の計算をします。
(退職所得×税率-控除額)×102.1%
今回の例の計算です。
(17,150千円×33%-1,536千円)×102.1%
=4,210千円
⑤A社とB社を合わせた役員退職金の住民税
退職金の住民税の税率は、一律10%です。
17,150千円(退職所得)×10%(税率)
=1,715千円
⑥A社とB社の合計の役員退職金に対する所得税と住民税の合計
4,210千円(所得税)+1,715千円(住民税)
=5,925千円
⑦A社の役員退職金の所得税と住民税の合計
1,861.8千円
⑧B社の役員退職金の所得税と住民税の合計
5,925千円-1,861.8千円=4,063.2千円
【3】A社とB社の合計の役員退職金の所得税と住民税
1,861.8千円(A社)+4,063.2千円(B社)
=4,925千円
2.複数の会社を違う年に退職したら、役員退職金はどうなるの?
A社とB社の社長を勤める鈴木さんが、
A社を平成28年に、B社を平成33年に勇退して、
退職金を受け取ります。
A社の代表取締役としての鈴木社長
昭和61年8月1日 就任
平成28年7月31日 退任
A社勤続30年
役員退職金30,000千円
B社の代表取締役としての鈴木社長
平成13年9月1日 就任
平成33年8月31日 退任
B社勤続20年
役員退職20,000千円
【1】A社の役員退職金の所得税と住民税
先の計算と同じです。
1,861.8千円でしたね。
【2】B社の役員退職金の所得税と住民税
①役員退職金
20,000千円(B社)
②退職所得控除
B社の退職金20,000千円に対する認定経費は、8,000千円です。
400千円×20年
=8,000千円(退職所得控除)
③退職所得
(20,000千円-8,000千円)×1/2
=6,000千円
④役員退職金の所得税
(6,000千円×20%-427.5千円)×102.1%
=778.7千円
⑤役員退職金の住民税
6,000千円×10%(税率)
=600千円
⑥役員退職金の所得税と住民税の合計
778.7千円(所得税)+600千円(住民税)
=1,378.7千円
【3】A社とB社の合計の役員退職金の所得税と住民税
1,861.8千円(A社)+1,378.7千円(B社)
=3,240.5千円
今回、同じ年と違う年の2つのケースで、
税金合計に1,700千円の差額がでました。
同じ年に退職したケース 4,925千円
違う年に退職したケース 3,240.5千円
差額 1,684.5千円
3.まとめ
複数の会社から役員退職金を受け取る場合、
違う年に受け取った方がよいでしょう。
節税メリットを受けられます。
例のように、最初にA社の役員退職金を受け取った年から、中4年以上あけます。
B社の役員退職金の退職所得控除の計算で、Bの勤続年数すべてが使用できます。
平成28年に受け取るなら、平成33年以降に受け取りましょう。
複数の会社の事業承継を計画するケースでは、特に注意することが大切です。
あわてて承継したばかりに、税負担が高額になってしまう可能性があります。
退職所得の受給に関する申告書を提出していることが前提になります。
提出していない場合、退職金の20.42%が源泉徴収されます。
提出した場合よりも多額の税金が控除されます。ご注意ください。
確定申告で取り戻すこともできますが、
「退職所得の受給に関する申告書」を
提出しておくことをお勧めします。