役員報酬の金額の決め方は、どうすればいいの?
社長の役員報酬は、
年1回の決算のタイミングで
金額の見直しを行うのが通常です。
では、社長の役員報酬はいくらに設定すれば、
会社と個人の税金を合わせたところで、
いちばん節税になるのでしょうか?
役員報酬の金額の決め方について
考えてみましょう。
目次
1.役員報酬の金額の決め方のプロセスとは?
2.まとめ
1.役員報酬の金額の決め方のプロセスとは?
まず、①会社の利益を想定します。
その後、②会社の想定利益を、社長の役員報酬と会社の利益に分け、
社長の役員報酬を決定します。
【1】役員報酬を控除する前の会社の利益を想定
会社の想定利益の決め方です。
前期の利益実績に当期の増減要因を加味して決定する方法が、
簡便的で比較的精度も高いのではないかと考えます。
例えば、新商品を取り扱う場合には、
新商品の販売により見込まれる粗利分を
前期の実績利益に加算します。
従業員を新しく採用する場合には、
従業員の人件費を実績利益から控除する
といった決め方です。
年間の借入金返済額から必要な利益を算出することもできます。
ただ、会社によっては、借入金返済額から算出した利益はハードルが高く、
達成に困難を伴う非現実的な数値になることもあります。
現実的に見込まれる利益を想定することが大切です。
私見ですが、前期の実績利益から想定する方法が、
一番ブレが少ないと考えます。
【2】想定利益を会社の利益と役員報酬に分割
想定利益が決まったら、会社の利益と役員報酬に分けます。
分けるにあたり、会社の法人税と社長の所得税とは
相反する動きをすることを、押さえておきましょう。
①会社の利益を減らし、役員報酬を増やす
※1 会社の法人税は減少
※2 社長個人の所得税、住民税、社会保険料は増加
②会社の利益を増やし、役員報酬を減らす
※1 会社の法人税は増加
※2 社長個人の所得税、住民税、社会保険料は減少
よく、会社の利益をゼロにすれば節税できるよ、
という話を聞きます。
実際はどうなのでしょうか?
確かに会社の利益がゼロなら、
法人税だけでみれば、
会社の納税額はゼロになります。
ただ、法人税と所得税は相反する動きをしますので、
社長の所得税は増加します。
法人税と所得税を合わせたトータルで節税になるとはかぎりません。
会社の利益と役員報酬を分割するにあたり、
トータルの納税額が最少になる
最適な節税ポイントを探ってみましょう。
【3】社長の役員報酬の金額をいくらにすればよいか?
①社長の役員報酬は250万~500万程度すると、税金と社会保険料の負担率が最少
社長の役員報酬の最適なポイントは、
課税所得が4,000万円程度までは、
250万円~500万円ということになります。
社長の役員報酬を
250万~500万円よりも多く設定すればするほど、
会社と社長のトータルの現金は減ってゆきます。
会社利益 法人税 会社負担の社会保険料 会社の負担率
2,000万円 620万円 0円 31.00%
1,500万円 425万円 75万円 33.33%
1,000万円 238万円 128万円 36.60%
500万円 89万円 157万円 49.20%
0円 0円 165万円
役員報酬 所得税 住民税 社会保険料 個人の負担率
0円 0円 0円 0円
500万円 14万円 24万円 75万円 22.60%
1,000万円 80万円 62万円 128万円 27.00%
1,500万円 204万円 109万円 157万円 31.33%
2,000万円 367万円 158万円 165万円 34.50%
会社の利益 役員報酬 トータルの負担率
2,000万円 0万円 31.00%
1,500万円 500万円 30.65%
1,000万円 1,000万円 31.80%
500万円 1,500万円 35.80%
0円 2,000万円 42.75%
②会社社長の前提条件
会社社長 40才 扶養親族なし
③法人実効税率
400万円まで 25.89%
800万円まで 27.57%
800万円超 33.79%
◎法人税
800万円まで 19%
800万円超 23.4%
◎地方法人税 10.3%
◎法人住民税 7.0%
◎事業税
400万円まで 3.4%
800万円まで 5.1%
800万円超 6.7%
現時点で、
平成29年4月1日以降開始事業年度に
適用される見込みの税率での試算です。
④個人の税率
・所得税 最高税率45%
・住民税 10%
・給与所得控除額 最高220万円
現時点で、
平成29年以降に
適用される見込みの税率での試算です。
⑤社会保険料
・社長と会社は各1/2負担
・料率30% 健康保険・介護保険11.7% 厚生年金18.3%と仮定した数値
・厚生年金18.3%は、現時点で平成29年9月以降適用見込みの数値
⑥税金と社会保険料の計算式
・法人税=(利益-社会保険料)×法人実効税率
・所得税=(役員給与-給与所得控除)×所得税率
・住民税=(役員給与-給与所得控除)×住民税率10%
・社会保険料=役員給与×社会保険料率30%×1/2
【4】試算の検討
①役員報酬の15%の社会保険料を会社が負担する義務があることがポイント
会社の利益が、
800万円以下で法人税の税率が軽減される利益の範囲であっても、
会社は役員報酬15%分の社会保険料を負担しなければなりません。
例えば、
役員報酬を1,500万円、
会社の利益を500万円とします。
上記の表によると、
法人税の実効税率25.89%により、
会社に法人税89万円が課税されます。
ただし、会社の税金と保険料を合わせると
負担率は49.2%にもなります。
社会保険料157万円の負担義務があるためです。
社長の役員報酬に対して発生する社会保険料のうち、
会社負担分は、会社の現金を減少させます。
必ず考慮しなくてはなりません。
②社会保険料は月払いのため、負担の実感を欠く
社会保険料は月払いです。このケースは、月13万の支払いです。
毎年157万の一括払いなら、負担感をもっと大きく感じると思います。
社会保険料の負担は大きいのに、負担の実感を欠く点に注意しましょう。
会社の利益をゼロにすると、
社長の役員報酬の社会保険料が高くなります。
税金と社会保険料の負担率でみると最も高くなってしまいます。
結論として、
社長の役員報酬は、250万~500万程度に固定した方が、
最も節税になり、会社と個人のトータルの現金残は多くなります。
③使い方の自由裁量度は個人の現金は高く、会社の現金は低い
会社の現金と個人の現金とでは、使い道の自由裁量度が全く異なります。
例えば、個人の現金を競馬などのギャンブルに使っても問題はありませんが、
会社の現金を同様に使うことはできないでしょう。
新規事業への投資をする場合に、会社の資金を投資するときは、
会社に銀行からの借入金があれば、
銀行から説明を求められることもあるでしょう。
場合によっては、
投資断念になってしまうかもしれません。
個人が直接投資したり、個人が新会社を設立して投資するときは、
会社の債権者などの利害関係者に関わらず、
比較的自由に行うことができます。
会社と個人の同じ1円であっても、
個人の1円の方が
使い道についての価値は高いです。
社長は、会社の資金繰りに万一のことがあれば、
個人の資金をつぎ込んで、会社を助けなければならない場合も出てくるでしょう。
個人でも資金を確保しておく必要があります。
【5】負担が増加する4つのラインに注意
節税の観点からは、
会社に利益を残した方が
会社と個人のトータル現金は多くなります。
個人として自由に使える資金を確保する観点からは、
4つの負担増加ラインに注意して
役員報酬を増やしてゆくことを考えましょう。
①給与収入1,000万円ライン
・給与所得控除が増えない
給与収入が1,000万円を超えると
給与所得控除額が増えません。
所得税の負担が増加します。
②課税所得900万円ライン
・所得税率が23%→33%に上昇
給与収入で約1,300万円のラインが、
課税所得900万円のラインになります。
課税所得が900万円を超えると
所得税率が23%→33%に上昇します。
所得税の負担増となります。
③給与収入1,626万円ライン
・社会保険料が増えない
給与収入1,626万円を超えると、
社会保険料は増えません。
上限である約428万円に固定されます。
社会保険料が増えないことは良いことですが、
経費としての社会保険料が増えないので、
税負担が増加します。
④課税所得1,800万円ライン
・所得税率が33%→40%に上昇
給与収入で約2,200万円のラインが、
課税所得1,800万円のラインになります。
課税所得が1,800万円を超えると
所得税率が33%→40%に上昇します。
所得税の負担増となります。
2.まとめ
社長の役員報酬は、課税所得で約4,000万円までは
250万から500万円程度にすると、
会社と個人を合わせた、税と社会保険料の負担が最少になります。
社長は、会社の危機に備えて
個人で自由に使える資金を
増やす必要があります。
社長の役員報酬を設定する場合、
4つの負担増加ラインを超えるごとに、
所得税の負担が増加することに注意しましょう。