個人でクリニックを経営する医師が概算経費(措置法26条)で申告します。社会保険診療の経費と自由診療の経費は区分した方がいいの?
【医師が概算経費を選択する場合の、社会保険診療と自由診療の経費の区分】
概算経費で申告する場合、社会保険診療収入の一定割合を概算経費として落とせます。
通常のクリニックでは、社会保険診療と自由診療の両方の診療を行っています。
では、社会保険診療の経費と自由診療の経費は区分した方が良いのでしょうか?
区分しない方が良いのでしょうか?
考えてみましょう。
目次
1.社会保険診療の経費と自由診療の経費を区分するメリットとは?
2.社会保険診療の経費と自由診療の経費を区分するデメリットとは?
3.まとめ
1.社会保険診療の経費と自由診療の経費を区分するメリットとは?
自由診療の経費を区分すればするほど、節税になる
社会保険診療の収入40,000千円
自由診療の収入 5,000千円
実額経費 25,000千円
実額経費を、社保診療分と自由診療分に区分しない場合と区分した場合とで、
両方の利益を比較してみましょう。
分かりやすくするため、
ここでは社保診療と自由診療の共通経費の按分等は考慮していません。
【1】実額経費を社保診療分と自由診療分に区分しないと、どうなるの?
①診療収入
40,000千円(社保収入)+5,000千円(自由収入)
=45,000千円
②診療経費
・実額経費
25,000千円
・概算経費
40,000千円×62%+2,900千円
=27,700千円
・措置法差額
27,700千円(概算経費)-25,000千円(実額経費)
=2,700千円
・診療経費合計
25,000千円(実額経費)+2,700千円(措置法差額)
=27,700千円
③診療利益
45,000千円(診療収入)-27,700千円(診療経費)
=17,300千円
【2】実額経費を社保診療分と自由診療分に区分すると、どうなるの?
今度は、実額経費 25,000千円(社保経費20,000千円 自由経費5,000千円)
に区分しました。
①診療収入
40,000千円(社保収入)+5,000千円(自由収入)
=45,000千円
②診療経費
・実額経費
20,000千円(社保経費)+5,000千円(自由経費)
=25,000千円
・概算経費
40,000千円×62%+2,900千円
=27,700千円
・措置法差額
27,700千円(概算経費)-20,000千円(社保経費)
=7,700千円
・診療経費合計
20,000千円(社保経費)+7,700千円(措置法差額)+5,000千円(自由経費)
=32,700千円
③診療利益
45,000千円(診療収入)-32,700千円(診療経費)
=12,300千円
診療利益を比較してみます。
・社保経費と自由経費を区分しない場合 17,300千円
・社保経費と自由経費を区分した場合 12,300千円
・差額 5,000千円
自由診療の経費5,000千円を区分しました。
その分、利益が減少しました。
節税メリットがありますね。
概算経費の特例は、社会保険診療の経費に対する特例です。
実際に支出していない措置法差額を、社保診療の経費にできます。
あくまで社会保険診療の経費にできるところがポイントです。
「概算経費」-「社保診療の実額経費」
=措置法差額
実額経費の合計から自由診療の経費を区分すればするほど、
社保診療の経費が少なくなります。
措置法差額が大きくなり、有利ですね。
自由診療の経費は、できる限り区分しましょう。
【3】自由診療経費は、どうやって区分するの?
自由診療経費の区分の仕方について、考えてみます。
①自由診療用の医薬品、消耗品を納品書などで区分する
明確に区分することは、大変なことかもしれません。
可能な範囲で分けることをお勧めします。
区分すればするだけ、節税につながります。
②歯科技工料は、請求書に自由診療分を記載してもらうように頼んでみる
歯科技工士さんは、依頼すれば、
自由診療分を区分して記載してくれるケースが多いです。
区分されていなければ、一度、区分の依頼をしてみましょう。
③消費税は、自由診療の経費になる
社保診療収入には、原則として、消費税は課税されません。
自由診療収入に課税されますので、自由診療の経費になります。
ただ、税込経理を採用している場合に限ります。
④事業税は、自由診療の経費になる
社会保険診療の利益には、事業税は課税されません。
自由診療の利益に課税されますので、自由診療の経費になります。
⑤自由診療用の医療機器の減価償却費
自由診療用の医療機器の減価償却費は、
自由診療の経費になります。
⑥自由診療の未収入金の貸倒損失
自由診療の未収入金の貸倒損失は、
自由診療の経費になります。
【4】社保診療と自由診療に共通する経費は、どうやって区分するの?
共通経費は、次の式で算出します。
「診療経費」-「直接の社保診療の経費」-「直接の自由診療の経費」
=社保診療と自由診療の共通経費
共通経費の区分の基準は、2つあります。
①自由診療の診療日数による割合で按分する
自由診療の診療日数を実際に計算します。
これは、非常に手間も時間もかかります。
そのうえ、合理的で妥当な計算方法であることを説明できない場合、
税務調査で不利益を被る効能性があります。
あまりお勧めできません。
②自由診療の収入の割合で按分する
診療収入合計のうちの、自由診療の収入の割合で按分します。
ある内科の場合で考えてみましょう。
社保診療の収入 40,000千円
自由診療の収入 10,000千円
共通経費 25,000千円
自由診療分の経費
25,000千円×10,000千円/50,000千円×85%(診療科目別調整率:内科)
=4,250千円
診療科目別調整率は、診療科目ごとに定められています。
・眼科、外科、整形外科 80%
・歯科、産婦人科 75%
・内科、耳鼻咽喉科などの上記以外の科目(美容整形を除く) 85%
区分の基準は、自由診療の収入の割合を選択して、按分する方が良いでしょう。
2.社会保険診療の経費と自由診療の経費を区分するデメリットとは?
【1】自由診療用の医薬品、消耗品を納品書などで区分するため、事務負担がかかる
明確に区分することは、時間もかかり大変なことかもしれません。
節税のためとはいえ、多少の事務負担はかかります。
可能な範囲で分けることをお勧めします。
【2】直接の社保診療の経費を区分すればするほど、節税にならない
共通経費は、次の式で算出します。
「診療経費」-「直接の社保診療の経費」-「直接の自由診療の経費」
=社保診療と自由診療の共通経費
直接の社保診療の経費を区分すればするほど、共通経費が少なくなります。
按分計算により、自由診療の経費に区分される金額が少なくなり、
節税にはデメリットとなります。
だからと言って、社保経費の区分をしないことは、
控えた方がよいでしょう。
下記に社会保険診療の経費の例を挙げておきます。
①レセプト請求の外注費
②社会診療用の医薬品、消耗品
③社会保険診療分の歯科技工料
④社会診療用の医療機器の減価償却費
⑤社会診療の未収入金の貸倒損失
3.まとめ
社会保険診療の経費を概算経費(措置法26条)で申告する場合、
自由診療の経費を区分した方が良いでしょう。
区分すればするだけ、節税メリットが得られます。
反対に、社保診療の経費を区分すると、分ければ分けるだけ、
節税にはデメリットになります。
自由診療の経費区分には積極的ですが、
社保診療の経費区分には、消極的になる方も
中にはいらっしゃいます。
自由診療の経費、社保診療の経費、
両方を区分して計算しましょう。
節税メリットは十分得られると考えます。