本社事務所は、所有と賃借のどちらがいいの?

【自社ビルを自己所有するか、賃貸するか】

自社ビルの所有を希望する経営者も多いのではないでしょうか。
不動産を所有するか、賃貸事務所にするかは
大きな決断になります。

では、会社での所有を選択した方が良いのでしょうか?
会社が借りることを選択した方が良いのでしょうか?
本社事務所について、税務や財務の観点から考えてみましょう。

花火大会

目次
1.本社事務所を自己所有すると、手元に残るキャッシュはいくらになるの?
2.本社事務所を賃借すると、手元に残るキャッシュはいくらになるの?
3.自己所有の事務所と賃借の事務所を、比較してみましょう。(借入金返済中の20年目まで)
4.自己所有の事務所と賃借の事務所を、比較してみましょう。(借入金返済終了後の21年目以降)
5.まとめ

1.本社事務所を自己所有すると、手元に残るキャッシュはいくらになるの?

【1】前提条件

不動産の取得に
100,000千円を投資します。

内訳は、
土地30,000千円、
建物70,000千円です。

資金の内訳は、
自己資金20,000千円、
借入金80,000千円とします。

借入の条件は、
固定金利2.5%、借入期間20年、元利均等返済とします。
分かりやすくするため、取得時の諸経費は取得価額に含まれるとします。

【2】金利はいくらになるの?

金利は、20年間の総額で21,700千円になります。
1年当たりの平均の支払利息は、
21,700千円÷20年
=1,080千円です。会計上、支払利息として経費になります。

毎年の元利返済額は5,080千円になります。
1年当たりの平均の元金返済額は、
5,080千円-1,080千円
=4,000千円です。

借入総額80,000千円÷借入期間20年
=4,000千円と一致します。

【3】減価償却費は、いくらになるの?

建物の耐用年数を40年とします。
1年当たりの償却費は、
70,000千円(建物の取得価額)÷40年(耐用年数)
=1,750千円です。

この金額は、会計上、減価償却費として経費になります。

【4】固定資産税は、いくらになるの?

固定資産税評価額は、 時価のおよそ7割と言われています。
固定資産税を簡便的に計算します。

不動産の取得価額の7割に、
固定資産税の税率1.4%と都市計画税の税率0.3%の合計を
乗じて算出します。

土地30,000千円×70%×(1.4%+0.3%)
=350千円

建物70,000千円×70%×(1.4%+0.3%)
=830千円

固定資産税と都市計画税の合計は、
1,180千円になります。

この金額が、会計上、租税公課として経費になります。

建物の固定資産税は、本来、経年劣化を考慮して計算します。
ここでは簡便計算のため、考慮していません。

【5】経費合計は、いくらになるの?

金利1,080千円+減価償却費1,750千円+固定資産税1,180千円
=4,010千円

【6】法人税等は、いくらになるの?

土地と建物に関係する経費合計の、
控除前利益を10,000千円とします。
法人税等の実効税率を35%とします。

経費控除前の利益10,000千円-金利1,080千円 -減価償却1,750千円-固定資産税1,180千円
=5,990千円(税引き前の利益)

法人税等の納税額は、
5,990千円×35%(実行税率)
=2,090千円です。

【7】手元に残るキャッシュは、いくらになるの?

手元に残るキャッシュの計算します。
税引き後の利益です。
5,990千円(税引き前の利益)-2,090千円(法人税等)
=3,900千円

手元に残るキャッシュは、税引き後利益に、
お金が残る減価償却費をプラスして、
借入返済額をマイナスした金額になります。

3,900千円(税引き後利益)+1,750千円(減価償却)-4,000千円(借入金返済額)
=1,650千円
1,650千円が手元に残ります。

2.本社事務所を賃借すると、手元に残るキャッシュはいくらになるの?

【1】前提条件

月額家賃を423千円とします。
年間の家賃支払額は、
423千円×12か月=5,070千円です。

自己所有する場合の
毎年の借入元利返済額5,080千円とおよそ同額です。
分かりやすくするため、礼金、更新料は家賃に含まれるとします。

【2】法人税等は、いくらになるの?

家賃を控除する前の利益を10,000千円、
法人税の実効税率を35%とします。

利益10,000千円-5,070千円(家賃)
=4,930,000円(税引き前利益)

法人税等の納税額は、
4,930千円×35%
=1,720千円となります。

【3】手元に残るキャッシュは、いくらになるの?

税引き後利益は、
4,930千円-1,720千円(法人税等)
=3,210千円です。

手元に残るキャッシュは、3,210千円です。
賃借の場合は、減価償却費や借入金返済がありません。
税引き後利益と同じ金額になります。

3.自己所有の事務所と賃借の事務所を、比較してみましょう。(借入金返済中の20年目まで)

【1】経費合計を比較してみます

自己所有 4,010千円
賃借 5,070千円
差額 ▲1,060千円

キャッシュアウトは、 自己所有と賃借ともに同額です。

ただ、自己所有では、借入金の返済です。
借入金の返済は、会計上、経費になりませんので、
自己所有の方が、賃貸よりも経費が少なくなります。

【2】法人税を比較してみます

自己所有 2,090千円
賃貸 1,720千円
差額 370千円

経費の差額1,060千円×実効税率35%
=370,000円
経費の差額分だけ、法人税の負担に差がでますね。

借入金の返済は経費にならないので、
自己所有の税負担が多くなります。

【3】キャッシュフローを比較してみます

自己所有 1,650千円
賃貸 3,210千円
差額 1,560千円

法人税370千円+固定資産税1,180千円
=1,550千円

自己所有では、法人税と固定資産税の負担が増えるため、
手元キャッシュが少なくなります。

借入返済中の20年間では、
キャッシュフローの面で、
賃貸が有利となりました。

1,550千円×20年 =31,000千円
相当な金額になりますね。
その後はどうなるのでしょうか?

4.自己所有の事務所と賃借の事務所を、比較してみましょう。(借入金返済終了後の21年目以降)

【1】経費合計を比較してみます

自己所有 減価償却費1,750千円+固定資産税1,180千円
=2,930千円

賃借 5,070千円
差額 ▲2,140千円

金利の支払いが終了したので、
自己所有の経費が減ります。

【2】法人税を比較してみます

自己所有

利益10,000千円-経費合計2,930千円
=7,070千円

7,070千円×35%
=2,470千円

賃貸 1,720千円
差額 750千円

金利がなくなった分、
自己所有の法人税負担が増えます。

【3】手元キャッシュを比較してみます

自己所有
7,070千円-法人税2,470千円+減価償却費1,750千円
=6,350千円

賃貸 3,210千円
差額 3,140千円

借入金の返済がなくなったので、
自己所有の手元キャッシュは増えましたね。

借入返済終了後10年間は、
自己所有が有利となりました。

3,140千円×10年 =31,400千円
だいぶ取り返しました。

当初の借入から20年間の返済期間中は、賃貸の方が、
手元キャッシュを31,000千円多く残しました。

借入返済の終了後10年間では、自己所有の方が
手元キャッシュを31,400千円多く残しました。

結果として30年間でみると、
キャッシュフローは、ほぼ±0となります。
31年目以降は、自己所有の方が多くキャッシュを残します。

5.まとめ

今回の例では、キャッシュフローに関して、
借入返済の終了前までは賃貸が有利、
借入返済の終了後からは、自己所有が有利となりました。

本社事務所を所有すれば、家賃の支払いはありません。
直接的な収益を生まない不動産を所有することになります。

借入金の返済期間中は、経営している事業が、
借入金返済に耐え得るだけの利益を生み出す必要があります。

不安な要素があれば、本社事務所の機能だけでなく、
賃貸可能なフロアも設計するなど、不動産そのものに
収益性を持たせることも考えてみましょう。
修繕に備えてお金も積み立てる必要があります。

自己所有の場合は、賃借の場合と比べて、
経営環境の変化に応じて事務所を移転するなどの
迅速性に劣ります。

金利や法人税などの税制や実効税率、建築単価も
経済情勢に応じて変動があります。

本社事務所を自己所有にするかの判断は、
経済情勢をふまえて、税務や財務のシミュレーションを行い
決断しましょう。